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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1204号 判決

理由

一  原告の請求原因(一)および(二)記載の事実、すなわち本件会員権の内容およびこれが被告に帰属していたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、請求原因(三)および(四)記載の原告主張の本件会員権取得の原因につき以下検討する。

(一)  (請求原因(三)記載の代理に基づく取得の有無)

原告は、本件会員権を被告の代理人日本ゴルフを介して譲り受けた旨主張するが、まず、日本ゴルフが本件会員権を被告の代理人として原告に譲渡したと認めるに足りる証拠はない。かえつて、右譲渡行為は次の(二)記載のとおり、日本ゴルフが、被告から譲渡担保として取得した本件会員権を原告に売却処分したものであることを認めることができる。

したがつて、原告の本主張は、代理行為の存在自体認められないので、その余の要件である代理権の存否とか、表見代理に必要なその余の要件につき判断するまでもなく理由がない。

(二)  (請求原因(四)記載の譲渡担保の処分に基づく取得の有無)

(1)  《証拠》によると次の事実を認めることができる。

(イ) 日本ゴルフはゴルフ会員権の売買斡旋並びに貸金等を業としている会社であること

(ロ) 被告が知人向井正にせがまれて、向井に対し同人が日本ゴルフから金六〇万円を借受けるにつき、本件会員権を譲渡担保とすることに同意し、その求めに応じ、日本ゴルフに対し本件会員権を譲渡担保とするために必要な書類であるところの、(1)東神奈川開発観光株式会社作成の被告の戸塚カントリークラブ入会金預り証(甲第一号証)と、新たに向井の要望で被告が作成したところの、(2)被告が金六〇万円を借り受け、昭和四三年七月二五日までに金六〇万円を支払つて本件会員権を買戻しうる旨の条件付の宛名白地の本件会員権の譲渡書(甲第二号証)および(3)戸塚カントリークラブ宛の新会員氏名白地の本件会員権の譲渡に伴う本件会員名義変更承認願書(甲第三号証)を右向井に交付したこと

(ハ) 向井正は、昭和四三年六月二〇日日本ゴルフに右各書類を交付したうえ、本件会員権を譲渡担保として金六〇万円を利息月五分の約定で貸付を受け、更に、同人は日本ゴルフから、金一〇万円、同年七月頃金三七万円と金一八万円の二口の追加貸付を受け、本件会員権を更に右貸金についても譲渡担保とする旨述べたので、日本ゴルフにおいて後者の追加貸付合計五五万に延滞金を加えた金八十五万円について、右譲渡書(甲第二号証)の金額欄横に「五拾八万円」と記載したこと(この点証人伊東文武の証言中、右追加貸付について、被告が本件会員権を更に譲渡担保とすることを承諾した旨の供述部分は、被告本人尋問の結果に照らして措信できず、他に右供述を裏付けうる証拠もない)

(ニ) そして、右六〇万円の貸金については、本件会員権の買戻期間経過後も利息が支払われたため、昭和四三年九月一五日まで右期間が延期され、更に、その後も利息の支払がいくらかなされていた関係で事実上本件会員権の処分が延期されていたものの、右元本の支払はなされないままになつていたこと(この点被告本人尋問の結果中に、被告が昭和四三年一二月二〇日頃、金六〇万円を日本ゴルフに提供した旨の供述部分は、《証拠》に照らして措信できないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない)

(ホ) そこで、日本ゴルフは本件会員権の処分による債権の充当を考え、昭和四五年五月二九日原告に対し当時の時価である金三二〇万円で売却し、戸塚カントリークラブに対する名義書換手続に必要な前記(1)ないし(3)の書面(甲第一ないし第三号証)を交付したこと

右認定に牴触する《証拠》は前掲各証拠に照らして措信できない。

(2)  右事実によると、原告は日本ゴルフから、同ゴルフが譲渡担保として取得した本件会員権を、転得したこととなる。

したがつて附言するに、仮に、日本ゴルフの本件会員権の処分が、譲渡担保権者としての義務に違反してなされたとしても、第三者である原告との関係においては、原告が被告を害する目的の下にこれを転得したとの特段の事情のない限り、日本ゴルフの本件売却行為は本件会員権の完全な帰属者としてなした有効なものであると解すべきであるところ、全証拠によるも右特段の事情を認めえないから、右行為により原告が本件会員権を完全に取得したといわざるをえない。

更に、附言するに、《証拠》によると、戸塚カントリークラブの会則中に会員権の譲渡には、同クラブの理事会の承認を要する旨の規定があるが、右規定の趣旨は、《証拠》および右乙第一号証の会則によると、会員権者は戸塚カントリークラブのゴルフ場においてプレイを行なう権利を有し、右権利の行使には、ゴルフが会員相互間の社交親睦を目的としているところから、これに適さない者を除くために設けられた制限であると解することができるから、したがつて、仮に、理事会の承認を得られなかつたとしても、譲受人が戸塚カントリークラブに対し、ゴルフ場でプレイをすることができないというに過ぎず、譲渡人と譲受人間の会員権の譲渡行為まで無効とするものではなく、この理は譲受人が譲渡担保権者を介して転得した場合においても同じである。《証拠》によると、原告が本件会員権の転得につき戸塚カントリークラブの理事会の承認を得ていないことを認めることができるが、右理由からして、原・被告間において本件会員権が原告に帰属することを否定することはできない。

三  よつて、原告の被告に対する本件会員権が原告に帰属することの確認を求める本訴請求は、理由があるからこれを認容

(裁判官 山口和男)

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